もくじ
・双極性障害の再発要因
IPSRTとは日本語で、対人関係・社会リズム療法と言われる治療法で、双極性気分障害(躁うつ病)に有効性が確立している治療法のことだそうです。
第114回日本精神神経学会の抄録を読んで、これは聴きたいと思い、参加したシンポジウムで最もインパクトを受けた内容の治療法でした。
双極性気分障害(躁うつ病)は、良い状態を長く維持することが、すごく難しい病気です。
うつ病よりも、はるかに多く再発します。
その再発を引き起こす要因は、対人関係でのストレスのみならず、楽しいことや充実感満足感の高まり、身体的活発さの増強などによっても生じ、さらに、睡眠覚醒や食事のリズムも影響するらしいのです。
・目から鱗?それとも再確認?
IPSRTでは、これらのすべての要素に治療的に手立てを講じます。
対人関係でストレスを受ける内容を分析し対処法を学べるようにするのと同時に、
ひどく不活発な生活態度とともに、ひどく活発にかつ高揚した生活をしないように指導します。
そして、そういった生活態度を受け入れられるように導くという治療を行うのです。
特に、楽しさと活発さについては、最高に楽しいとか活発であるというときを+5、最低を-5としたとき、「生活態度を+2〜-2に押さえる」というのです。
私流の解釈では、「曇りのちときどき晴れ」ならぬ「2のちときどき3」といったところでしょうか。
これがIPSRTの治療のポイントであると同時に、生きるということに関して「死刑宣告」でもあるのです。
ひどく活動性の低下した生活を送ることには異論はないでしょうが、快活すぎる生活もしないようにしなければならないということに違和感を感じる人は多いはずです。
この死刑宣告を、いかに受け入れられるようにサポートしていくかという点も、IPSRTという治療のキモとなります。
一般に、対人関係療法IPTには、治療の対象とする4つの領域というのものがあります。
IPSRTでは、この4つの領域に加えて第5の領域を手当てすることに重点を置くと言うことです。
この第5の領域が先に述べた「死刑宣告」の領域です。
・IPSRTに特有の第5の問題領域と治療の概要
以下の内容については、『水島 広子,双極性障害の疾患教育と対人関係・社会リズム療法,精神経誌(2011)113巻 9 号』から要点を解説し、私見を交えて記載します。
通常 IPT が扱う4つの問題領域には、「大切なものの喪失に対する心の処理不全」「対人関係で相手への期待の見誤り」「役割の変化への適応不全」「対人関係の構築障害」というものがあります。
この4つの問題領域については、後日、述べることにします。
双極性障害になってしまうと、治って治療をしなくて良くなるということが殆ど期待できません。
ですから健康な生活を送るという自分本来の人生を失ってしまったという悲しみ苦しみを、治療する側が我が身のことであるならどうであるかを自問して、
その人の失ったものへの深刻さを十分に理解し、そういった治療する側のマインドで向かい合い、
そうなってしまった人の気持ちを語ってもらい、傾聴し、双極性障害という再発しやすい病気になってしまったこと、その病気とともに生きるということを受け入れられるようになってもらうのです。
また、双極性障害になってしまった人の再発を予防するには、味気ない生活を送らねばならないと言っても過言ではありません。
先に述べたように、人生の「最高の状態を+5」「最悪を-5」としたとき、「+2から-2ときどき+3」というような生活を行ってもらう必要があります。
どんなに調子が良くなっても+4や+5の生活をしてはならないのです。
これが第5の問題領域つまり「死刑宣告」の意味です。
辛いことです。
この辛さに共感して、これを受け入れられるように決心してもらわねばなりません。
それらの治療に加えて、social rhythm metric(SRM)を用いて患者の社会リズムを記録し、その安定化を図っていきます。
SRMには、
- 起床時刻
- 人と初めて接触した時刻
- 仕事・学校・家事・ボランティアなどを始めた時刻
- 夕食の時刻
- 就寝時刻
などを記録してもらいます。
双極性障害は、この社会リズムが狂ってしまうと再発するリスクが高まるのです。
ですから、このリズムを記録して乱れのない生活を行ってもらいます。
結構、味気ない生活になるかもしれません。
しかし、これを受け入れられなければ再発リスクは高まってしまうのです。
こういった人生を受け入れる途中で倒れてしまわないように、治療する側が双極性障害の人の「杖」代わりとなる必要があると言えば分かりやすいでしょうか。
・IPSRTは蒼居育成障害に効果がある!
今までの治療の実情は、双極性障害の人の生活リズムにあまり介入しない傾向がありました。
辛いことですが、IPSRTは生活リズムに強く介入します。
IPSRTが効果があることは証明されている事実であることに間違いはありません。
双極性障害になってしまった人も、IPSRTという治療は受けられないかも知れません。
しかし、これまで述べたような生活パターンを心がけるだけで、再発リスクを低下させることができる可能性が高まるはずです。
再発の繰り返しに困っている双極性障害の人は、生活リズムとやり過ぎないことだけでもやってみる価値はあると思います。
一度お試しあれ!